第124話 「食物不耐症について」
2024.07.01
図1は、イタリアのお医者さん達の食物不耐症に関する報告書の挿絵です。人間は、従属栄養動物です。食べないと生きて行けません。食べた物が原因となって、食後に身体に不快で、不利益な反応が起きることもあります。同じ物を食べても、一部の人だけに健康被害が生じることもあります。
「ある人の食物は、他人の毒」という教訓は、ローマ時代から言い伝えられているそうです。食物アレルギーは、食べた人の免疫学的機序が作動しています。ショックを起こし、死亡する場合もあります。
牛乳に含まれている乳糖が原因で、お腹の調子が悪くなる人もいますが、免疫学的機序は作動していません。この場合には食物アレルギーではなく、食物不耐症と分類されています(表1)。
1)食物不耐症とは
食物不耐症は、食物アレルギーと症状が似ている場合があります。不耐症が疑われる場合も、医師に相談すべきです。食物不耐症の場合、通常、数時間以内に症状が出ますが、数時間から数日間も続くこともあります。
また、不耐性の食品を頻繁に摂取していると、症状と特定の食品との関連に気付くことが、難しくなる場合もあります。食物不耐症の一般的な症状は、下痢、膨満感、発疹、頭痛、吐き気、疲労度、腹痛、鼻水などです。
2)食物不耐症を起こす食品の例
①FODMAPs
FODMAPs(Fermentable, Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides And Polyols)は、図2のように、発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールの総称です。
後述の乳糖や果糖も含みます。色々な食品に自然に含まれる比較的低分子の炭水化物ですが、消化不良などを起こす人がいます。FODMAPsは小腸での吸収が悪く、大腸に移動して、腸内細菌を刺激します。細菌がFODMAPsを分解し、発酵することで、ガスが発生し、膨満感や不快感が生じます。これらの炭水化物には浸透圧を増加させる作用があり、消化管に水を引き込み、下痢や不快感を引き起こします。
FODMAPs不耐症の症状には、膨満感、下痢、腹痛、 便秘などがあります。FODMAPs不耐症は、過敏性腸症候群の方に多く見られます。FODMAPsは、以下の食品に含まれています。りんご、ソフトチーズ、蜂蜜、牛乳、アーティチョーク、パン、豆類、他。
①-1 乳糖
乳糖は、牛乳や乳製品に含まれる糖です。体内ではラクターゼという酵素によって分解され、消化吸収されます。図2のように乳糖不耐症は、ラクターゼ(乳糖分解)酵素の不足により、乳糖を消化できず、腹痛や膨満感、下痢などが起こります。牛乳中の乳糖を酵素で処理した製品も販売されています。
①-2 果糖
果糖は、果物や野菜、蜂蜜、異性化液糖などに含まれる単糖です。果糖不耐症の人は、果糖が効率よく血中に吸収されないのでその代わり、吸収されなかった果糖は大腸に移動し、そこで腸内細菌によって発酵され、消化不良を引き起こします。
果糖不耐症の症状には、以下のようなものがあります。下痢、膨満感、吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛、他。発症を予防するためには、以下の果糖を含む食品を避ける必要があります。蜂蜜、りんご、異性化液糖を含む食品、スイカ、サクランボ、梨、スナップエンドウなどの野菜。
②グルテン
グルテンは、小麦、大麦、ライ麦、ライ小麦に含まれているタンパク質です。グルテンは、小麦アレルギー、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症などの疾患に関連しています。セリアック病は免疫反応が関与し、自己免疫疾患に分類されます。
セリアック病や小麦アレルギーの検査で陰性であっても、不快な症状を感じる方もいます。グルテン不耐症の症状は、膨満感、腹痛、下痢や便秘、 頭痛、関節痛などです。
米粉などでグルテンを含まないように作成したグルテンフリーの食品が販売されています。
③ヒスタミン・アミン類
アミン類は食品成分としても検出されますが、食品の製造中や保存中に細菌によりアミノ酸から生じる場合もあります。チーズからはチラミン、ワインからはプトレシンなどが検出されます。多種類のアミンが各種の食品に存在しますが、ヒスタミンは食後の健康に最も頻繁に悪影響を及ぼしています。図4のように、ヒスチジン脱炭酸酵素をもつ細菌が魚類などに作用するとヒスタミンが産生され、食中毒を起こしてしまうこともあります。
ヒスタミンは、免疫系、消化器系、神経系などに広く分布している体内化学物質でもあります。ヒスタミン不耐症の症状は、皮膚発赤、頭痛、じんましん、かゆみ、下痢症などです。潜伏時間は、数分から60分です。
品質の悪い以下の食品は、要注意です。魚類、発酵食品、畜肉製品、他。
④カフェイン
カフェインは、コーヒー、緑茶、紅茶、エナジードリンクなど、さまざまな飲料に含まれています。多くの成人は、1日当たり約400mg(コーヒー約4杯分に相当)までのカフェインを、副作用なく摂取することができます。その一方で、カフェインに感受性が高い人では、ごく少量の摂取でも悪い影響が出る場合があります。このカフェインに対する高い感受性は、遺伝的要因やカフェインの代謝・排泄能力の低下と関係があると考えられています。カフェインに対して感受性の高い人は、少量でもカフェインを摂取すると、心拍数の増加、不安感の増加、不眠症などの症状が出ることがあります。
カフェインに不耐症の方は、コーヒー、エナジードリンク、緑茶、紅茶、チョコレートなどのカフェインを含む食品や飲料を避け、摂取量を抑える必要があります。高濃度のカフェインを含むエナジードリンクの多量に飲んで死亡した例もあります。
⑤サリチル酸塩
サリチル酸塩は、植物が昆虫や病気などの環境ストレスから身を守るために作り出す天然の化学物質です。果物、野菜、お茶、コーヒー、スパイス、ナッツ、蜂蜜など、さまざまな食品に含まれています。
多くの人は食品に含まれる通常量のサリチル酸塩を摂取しても問題はありませんが、少量でも摂取すると副作用を起こす人もいます。サリチル酸不耐症の症状は以下のとおりです。鼻詰り、副鼻腔炎、気管支喘息、下痢、大腸炎、じんましん、他。
サリチル酸塩不耐症の方は、スパイス、コーヒー、レーズン、オレンジなどサリチル酸塩を多く含む食品、およびサリチル酸塩を含む化粧品や医薬品を避けるべきです。
⑥亜硫酸塩類
亜硫酸塩は、ブドウや熟成したチーズなど、いくつかの食品に自然に含まれています。また、食品、飲料、医薬品の品質向上の目的で使用されています。亜硫酸塩は、褐変を遅らせるためにドライフルーツなどの食品に添加され、ワインの醸造でも、腐敗を防ぐために添加されています.
多くの人は食品や飲料に含まれる亜硫酸塩の影響を受けませんが、敏感に影響を受ける人もいます。亜硫酸塩によって、喘息を起こす方もいます。亜硫酸塩過敏症の症状としては、じんましん、皮膚の腫れ、鼻詰り、低血圧、下痢、咳などです。多くの国では、亜硫酸塩を含む食品に表示を義務付けています。
⑦その他の食品と食物不耐症
食品に含まれている成分で食物不耐症を起こす可能性があるものとして、以下のものも知られています。
セロトニン(トマト、バナナ、キウイ、パイナップル)、アセチルコリン (ナス、トマト、タケノコ、サトイモ、ヤマイモ、クワイ)、テオブロミン(チョコレートなど)、アルコール(酒類)、プロテアーゼインヒビター(豆)他。
また、酵母や卵の卵白を食べると体調に異常をきたす方もおられます。着色料、アスパルテーム、糖アルコールなどに感受性を示す方もおられます。
食物不耐性が疑われる場合は、医師の診察を受けていただきたいと思います。間違った判断により食物の選択に制限を加えることは、食生活の楽しみや喜びを減らしてしまうことにもなります。
図5に示した食事に注意が必要な方は、災害発生などの非常時に備えて食べられる物を備蓄しておく必要があります。非常事態が発生してからでは、希望する食物の準備ができなくなる恐れもあります。
避難所などでは、個々人の希望に沿った非常食の準備は難しいと思われます。食べられない物がある場合は、図5のようなカードやビブスなどで情報共有し、理解を求めましょう。食物アレルギーや不耐症などの方に対する配慮を行うためにも、食べられない物の明示を遠慮なく行える雰囲気作りも必要です。
皆で助け合って、口から災いが入らないようにしながら暮らして行きましょう。
参考文献:
1) F. Zingone, et al.: Myths and Facts about Food Intolerance: A Narrative Review, Nutrients 2023, 15, 4969. https://doi.org/10.3390/nu15234969
2) 厚生労働科学研究班: 食物アレルギーの診療の手引き2023、 2024年3月29日発行